大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)15号 判決
控訴人 大阪市信用保証協会
右代表者理事 黒田泰輔
右訴訟代理人弁護士 竹西輝雄
同 岡本宏
被控訴人 中村晁
被控訴人 白川武夫
主文
一、控訴人の被控訴人中村晁に対する控訴を棄却する。
二、原判決中被控訴人白川武夫に対する請求を棄却した部分を取消す。
三、被控訴人白川武夫は控訴人に対し金一八五万二、七五二円及びこれに対する昭和四三年四月四日から完済に至るまで日歩五銭の割合による金員を支払え。
四、訴訟費用中控訴人、被控訴人中村晁間に生じた控訴費用は控訴人の負担とし、控訴人、被控訴人白川武夫間に生じた訴訟費用は第一、二審とも被控訴人白川武夫の負担とする。
五、本判決は、第三項に限り、控訴人において金六〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者が求めた裁判
一、控訴人
1.原判決を取消す。
2.被控訴人らは控訴人に対し連帯して金一八五万二、七五二円及びこれに対する昭和四三年四月四日から完済に至るまで日歩五銭の割合による金員を支払え。
3.訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
4.仮執行の宣言
二、被控訴人ら
1.本件控訴を棄却する。
2.控訴費用は控訴人の負担とする。
第二、当事者の主張、立証
次に附加するほか原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(たゞし、証拠欄中「甲第二号」とあるのを「甲第二号証の一」と訂正)。
一、控訴人の主張
富永辰雄が被控訴人らの表見代理人であり、被控訴人らは民法一一〇条により本人として責に任ずべきであるとの従前の主張を撤回する。
二、立証〈省略〉。
理由
一、〈証拠〉によれば、控訴人主張の請求原因(一)、(二)ならびに(五)の各事実を認めることができる。
二、甲第一号証の一は、保証委託者兼債務者マコト産業株式会社から控訴人にあてた、三井銀行阿倍野支店から二〇〇万円を借入れるについてその保証を委託する旨記載した昭和四二年五月二二日付の保証委託契約書であるが、同号証の連帯保証人欄の被控訴人ら名下の各印影が同人らの印章によって顕出せられたものであることは当事者間に争がないから、反証がない限り、該各印影は被控訴人らの意思に基づいて成立したものと推定される。そこで右反証の有無について検討する。
(一)被控訴人中村について
〈証拠〉によれば、同号証中の中村の記名押印はマコト産業の代表取締役である富永辰雄によってなされたもので、被控訴人中村はこれに関与していないこと、被控訴人中村は本件連帯保証につき事前になんらの相談を受けておらず、したがって連帯保証人として契約文書に押印することを承諾した事実はないこと、右記名押印に用いられた記名判及び印章はかねて富永が作製してこれを保管していたものであり、同号証に添付された被控訴人中村の印鑑証明書(甲第一号証の二、成立につき争なし。)は、マコト産業の役員改選に当り、被控訴人中村(同人は昭和三八年頃からマコト産業の従業員であった。)の名を役員に加えるためその印鑑証明書が必要であるから提出せよとの富永の指示に従い、被控訴人中村が右印章を用いて登録入手し、富永に差出したものであることが認められ、右認定によれば、甲第一号証の」の中村名下の印影が被控訴人中村の意思に基づいて成立したものとは認め難い。昭和四一年一一月一〇日マコト産業が控訴人保証の下に住友銀行から五〇万円を借入れるに当り、被控訴人中村が富永の依頼により、マコト産業の控訴人に対する保証委託契約上の債務につき連帯保証した事実は当事者間に争がないが、この事実によっても、右認定を左右することはできない。
(二)被控訴人白川について
被控訴人白川本人は、原当審において「昭和四二年五月二二日、マコト産業が福徳相互銀行から大阪事務機械振出の手形の割引を受けた際、依頼されて保証人となり、右保証関係書類作成のため印章と印鑑証明書(同日作成の甲第一号証の四)を富永に渡した。本件保証契約については何もきいていないから、甲第一号証の一の押印は富永が同日右印章を冒用して行ったものと思われる。印章を富永に交付したのはその時だけで、そのほかにはない。」と供述するが、〈証拠〉によれば、福徳相互銀行とマコト産業との間の右手形割引取引は存在しなかったことが認められること、〈証拠〉により昭和四二年五月八日控訴人に提出された本件保証の依頼書であることが認められる甲第五号証にはその保証人欄に白川武夫の記名押印があり、その印影は甲第一号証の一の印影と同一であること等からみて右供述は措信できない。また、〈証拠〉によれば、甲第一号証の一のペン書きによる白川武夫の記名は西村克己によってなされたものであることが認められるが、このことから直ちに前記推定を左右することはできない。その他前記推定を左右する証拠はない。
三、被控訴人中村に対する請求について
二の認定によれば、甲第一号証の一を以て本件連帯保証の事実を認定する証拠とすることはできず、他にこの点に関する証拠はないから、控訴人の請求は理由がない。したがって、右請求を棄却した原判決は正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。
四、被控訴人白川に対する請求について
二の認定によれば、甲第一号証の一の被控訴人白川の印影は同人の意思に基づいて成立したものと推定され、その結果同号証中同被控訴人に関する部分は真正に成立したものと推定される。そこで同号証によれば、請求原因(三)の事実を認めることができ、右事実とさきに認定した請求原因(一)(二)(五)の各事実とを併せ考えれば控訴人の請求は理由があるから、これを認容すべきであり、これと異なる原判決は取消を免れない。よって民訴法九五条、九六条、八九条、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 入江教夫 和田功)